2003年11月1日開業。リウマチ膠原病(こうげんびょう)の専門ですが、この疾患群は、からだ全体をGeneralにみることが要求されます。体を総合的に診ること、そして危機をいち早く判断し、高度専門医療機関と連携すること、このことは「西成田医院」の基本的姿勢です。
そしてまた、体のみならず、心や精神の問題にも力の及ぶかぎり対応して参ります。
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病気の話あれこれ

●リウマチ性多発筋痛症についてのQ&A

<2012年6月4日> FM日立「健康ナビ」で放送した内容です。


Q.シェーグレン症候群という病名は、あまり

聞きなれない病名ですが、どんな病気ですか。

Aシェーグレンというのは人の名前でスウェーデンの眼科医です。この眼科の先生が、この病気をみつけた、ということでこの名前があります。

Q 覚えづらい病名ですね。

A そうですね。シェーグレン症候群というのは膠原病の一つで、関節リウマチなどと親戚みたいな病気です。30歳から60歳くらいで発症することが多く、女性に多い病気です。

Q どういう症状が出るのでしょうか。

A この病気の中心となる症状は、皮膚、粘膜などが乾燥することです。ドライになるということでね。眼の乾燥はいわゆるドライアイです。口の乾燥は、口腔乾燥症といいます。

皮膚が乾燥する場合は、乾燥肌というわけです。

A ドライアイの人はたくさんいますね。

Q そうですね、ドライアイの方はたくさんいますが、むろん、すべての人がシェーグレン症候群というわけではありません。一口にドライアイと言っても、ほとんど自覚症状もなく眼科の先生に指摘されて初めて自覚する場合もありますし、また、ドライアイとしての多彩な症状を訴える方もいます。一搬にシェーグレン症候群では、たとえば「目がごろごろする」、「目にゴミが入ったような感じがする」「目が痛い」逆に「目がかゆい」といった訴えすることがあります。また、「光で目がまぶしい」とか「目がパサついて目があけづらい」などという症状の人もいます。

Q では口腔乾燥症というのはどういう症状でしょうか。

A 口腔乾燥症というのは、口が渇くということですが、この症状もいろいろです。そもそも、シェーグレン症候群で口が渇くというのは、乾燥、ドライになるということですが、日本語で「かわく」というと、たとえば「のどがかわいて水が飲みたい」という意味で、「かわく」という表現がつかわれることがありますね。「のどが渇いて水が飲みたい」というのは、たとえば、糖尿病などでよくみられる症状です。しかし、シェーグレン症候群で「乾く」というのは、繰り返しになりますが、ドライであるということです。このあたり、患者さんも時々、混同していることがあります。

Q それでは口が渇く、ドライになるとどういう症状を患者さんは,訴えて来られるのでしょうか。

A. たとえば、よくあるのは「つばが出にくくて、ぱさぱさしたもの、パンであるとか乾燥したものが食べにくい」、あるいは「口がねばねばして、気持ち悪い」「ものがしゃべりづらい」「口臭が気になる」といったようなものです。なかには、「急に虫歯が増えた」というようなものもあります。唾液が出ないということは当然、虫歯が起こりやすくなります。口角炎ができやすく何度も繰り返すということもよくあります。また、唾液を出す腺を「唾液腺」といいますが、これには、耳下腺や顎下線があります。耳下腺は耳の下あたり、顎下線はあごのしたあたりにありますが、こうした場所が繰り返しはれるということもしばしばみられます。

Q. そうしますと、このシェーグレン症候群という病気は、唾液線に何か問題が起こるということでしょうか。

A そういうことです。この病気では、自己免疫という免疫の異常で、涙腺、涙を出す腺ですね、また先ほど述べた唾液腺などに慢性的な炎症が起こります。結果、涙や唾液の分泌が悪くなり、乾燥する症状がでるわけです。

また、ほかの腺組織、たとえば汗を出す組織を汗腺といいますが、この汗腺にも同じような炎症が起こります。汗が出にくくなり、いわゆる乾燥肌という状態になるわけです。

Q では、ドライアイの人は、一応、このシェーグレン症候群という病気のことも考えたほうがいいのでしょうか。

A 先ほど述べたように、ドライアイの方がすべてこの病気というわけではありません。しかし、そのなかでも、とくに「目のごろごろ感、異物感」が強いという場合には、この病気を疑ってもよいと思います。また、ドライアイだけでなく、口のなかの乾燥症状がある場合には、専門の医療機関を受診したほうがいいかもしれません。ただ、口がかわく、という現象は、加齢、つまりお年をとることでも起こります。

年齢に伴って誰でも唾液の量は少なくなっていくわけですね。それから、精神安定剤や睡眠剤の類は、服用していると口が渇きます。また、時々あるのですが、食道癌などで放射線治療をした方は、唾液腺が壊れ、唾液がでにくくなります。この辺は、シェーグレン症候群と関係のない口腔乾燥症として一応理解しておかれたほうがいいでしょう。

Q どのような検査をすれば、この病気がはっきりわかるのですか。

A まず、血液検査でかなり診断に迫れる場合があります。シェーグレン症候群の方は、血液検査で、少し難しいのですが、SSA抗体、SSB抗体という通常ではみられない検査値が陽性となることが多くみられます。陰性の場合もあるのですが、このSSA抗体、SSB抗体が陽性であればこの病気がかなり疑わしくなります。

症状や血液検査で疑われたら、唾液腺を実際にレントゲン写真で写しだしたり、あるいは、口唇生検といって、くちびるにある唾液腺の一部を切って調べたりします。こうしたことで、診断をはっきりさせることができます。

Q では、このような病気を心配されている人は、実際、病院の何科を受診したらよいのでしょうか。

A やはり、内科やリウマチ科が中心となるとおもいます。ただ、先ほどから、お話ししているように、「乾く」という訴えは実に多彩です。患者さんは「のどがかわく」とかんがえると糖尿病を心配します。「口がねばねばする」と感じると歯の病気かもしれないと考えます。「目がかゆい」と花粉症かもしれないと疑います。実は、「乾く、ドライ」という症状を的確に聞き出し、診断の糸口にすることは案外難しいのです。病名がつかず、いろいろな科を転々とし、悶々している患者さんも少なくありません。この病気の診断には、歯科や眼科、耳鼻科、皮膚科など多くの分野の先生との協調が重要です。欧米ではシェーグレン症候群という病気は一般に広く認知されていますが、日本の場合、欧米に比べるとこの病気に対するは認識が少し低いと思います。診断されず、潜在している患者数は決して少なくないはずで、実際には10万から30万人はいると推定されています。リウマチという病気は一般的で日本で約80万人くらいと言われていますので、その三分の一くらいの数のシェーグレン症候群の患者さんがいるということになりますね。

Q 次に治療ということになりますが、治療法はどのようなものでしょうか。

A 塩酸セビメリンという薬剤がよく効きます。唾液の分泌を促し、口の中が潤ったようになります。涙液の分泌にも一定の効果があります。そのほかは、目や口の症状に対する対処療法が中心となります。目でいえば、人口涙液など様々な点眼薬、不十分な場合には涙点プラーグといって眼科的な専門的治療もあります。口腔乾燥症に対しては、人口唾液のスプレーがあります。口のなかにスプレーするわけです。私がよく勧めているのは、⑦キシリトールの入ったガムをかむこと、細かくきざんだ梅の切れ端を口に含んでなめること、のど飴を利用すること、適宜塩水のうがいをすること、などです。こうしたことを組み合わせ、日常的に繰り返すことで唾液の分泌を促すように訓練することが大事です。

Q シェーグレン症候群の乾燥症状について、話を進めてきましたが、この病気はそれ以外にも症状がでますか。

A 私は、シェーグレン症候群の診断がついた患者さんに、はじめに病気のことを説明するとき、2つのことをお話しします。ひとつは、乾燥する症状だけで、ずつと経過していく場合もありますが、この病気に伴うさまざまな合併症がでる場合があるということです。そしてもう一つは、最初にお話ししたように、この病気は膠原病のひとつで、リウマチと親戚みたいな病気で、時にリウマチをはじめとする、いろいろなほかの膠原病を合併してくることがある、ということです。乾燥する症状だけですと、通院するのがついつい、おっくうとなり病院から足が遠のいてしまいがちになりますが、今述べた二つの点から、やはり目をはなしてはいけない、しっかり経過をみていかなければいけない種類の病気だと思っています。

Q 最初のひとつですが、シェーグレン症候群の乾燥症状以外の合併症というのは、どういうものでしょうか。

A まず、レイノー現象という症状です。これは、冷たい水や、寒い風などいわゆる寒冷の刺激によって、手の指や足の指などが血流障害を起こし、まつ白になってしまう症状です。このレイノー現象はシェーグレン症候群の方の約30%くらいにみられます。また、様々な皮膚の症状もみられます。紅班といって赤い斑点や、紫斑といって紫色の細かな斑点が出現することがあります。あるいは、今時期のような紫外線の強い時期は、日光過敏症といって、紫外線負けを起こすことがあるので注意が必要です。それから、関節痛もよく認められます。ただ、シェーグレン症候群の関節炎は、リウマチとは違って、進行性で慢性てきなものではなく、一時的な繰り返す関節痛であることが多いです。従って変形や強直がおこることは基本的にありません。

Q 内臓にも合併症はでるのでしょうか

A. 今まで述べてきた症状もそうですが、むろん、この病気の方のすべての人におこるというものではありません。内臓の合併症も出ますが、全員に起こるというわけではなく、

起こり得るということで、慎重にみていく必要がある、という意味合いです。まず、内臓の合併症として重要なのは、肺臓炎というものですが、ウイルスや細菌で起こる肺炎とは異なる原因で、肺の炎症がおこります。咳や息切れという症状になります。また、甲状腺の合併症も比較的多くみられます。慢性甲状腺炎といって甲状腺の機能低下症がおこすことがあります。それから、慢性の肝臓の障害です。この慢性肝炎というのは、通常ですと、アルコール、飲酒が原因であったり、脂肪肝であったり、またよく知られているのは、B型とかC型とか、いわゆる肝炎ウィルスでおこることは有名ですが、こうしたものがなく原因のはっきりしない慢性肝炎では、一応シェーグレン症候群が隠れていないかどうか、調べてみるひつようがあると思います。今まで、述べてきた肺、甲状腺、肝臓はこの病気の内臓合併症として代表的なものですが、繰り返しになりますが、原因不明の肺の病気、甲状腺の病気、肝臓の病気があるときには、シェーグレン症候群の合併症かもしれない、という視点から、アプローチすることも必要かと考えています。 

A 最初に、この病気はリウマチの親戚みたいな病気という話がありましたが。

Q それが、次に大事な点です。この病気は膠原病の一つで、同じ膠原病の代表的な病気である、関節リウマチと一諸になって出る場合があります。あるいはこの病気の経過とともにリウマチが出てくることがあります。さきほど話したように、シェ-グレン症候群でも関節炎はおこります。リウマチの症状と紛らわしいのですが、リウマチの関節症状の特徴は、持続性ということです。1カ月以上も関節が腫れて痛むというときには、リウマチの合併、存在を疑ったほうがよいでしょう。

Q. 乾燥する病気、シェーグレン症候群ということですが、いろいろな症状が出るのですね。

A シェーグレン症候群は、乾燥症状を主としますが、そしてその症状だけで経過していく場合も多いのですが、なかに、この病気の内臓合併症、あるいはリウマチなどを起してくることがる、ということから目が離せない病気と言えます。


2011年4月4日 「FMひたち」健康ナビで放送した内容です。

高尿酸血症

Q:そもそも尿酸というのは、どういうものですか?

A:尿酸というのは、プリン体という物質が分解され代謝されたものです。では、尿酸のもとになるプリン体がどこにあるかというと、まず、私たち体の中にあります。体の細胞のなかに核酸という物質があり、この中にプリン体が含まれています。人間の細胞は、日々新陳代謝を繰り返しているわけですから、一定量のプリン体は体のなかに放出され、それが尿酸となります。

Q:誰にでも、血液中に尿酸があるということですね?

A:そうです。それが血液中の尿酸の正常値ということになります。人間ドックや検診などでよく測定されますが、だいたい男性で6.5mg・dl、女性で6.0㎎・dl以内が正常値です。

Q:女性のほうが低いのですか?

A:そうです。女性ホルモンには尿酸低下作用がるので、男性より低くなります。あとでお話ししますが、尿酸が高いと痛風をおこしますが、痛風が圧倒的に男性に多いのはこのためです。さて、正常値を超えて尿酸が7.0を超えると高尿酸血症ということになります。尿酸のもとになるプリン体は、私たちが日々口にするあらゆる食べ物に多かれ少なかれ含まれています。食べ物から尿酸のもとになるプリン体をとっているわけですね。

人間は、食べ物から入ってきた尿酸を最終的に分解することができません。尿酸が7.0を超えると、体のいろいろなところに尿酸が沈着していきます。その典型が関節です。関節に沈着すると痛風の原因となります。

 余談になりますが、何故か人間を含め霊長類には尿酸を分解する酵素がありません。進化という点からはおかしなことですが、鳥や爬虫類にはこの酵素があり、尿酸を分解して排泄することができます。鳥の糞が白く車の上などにおちてきますが、あの白いのはもともとは尿酸です。ですから、チンパンジーは痛風になるかもしれませんが、カラスが鳴くのはカラスの勝手で、カラスが痛風になって痛みでなくことはないはずです。



Q:先ほど、尿酸のもとになるプリン体がいろいろな食べ物に含まれるということでしたが、特に多いのはどういう食品ですか?

A.そうですね、いくつかあげますと、魚でも肉類でもレバーには大量にプリン体が含まれます。ほか、白子やかつを、イワシなどです。牛肉も大きなヒレのステーキにはかなりのプリン体が含まれています。アルコール類ではビールに多く含まれていることはよく知られていますね。

Q:そうすると、尿酸の高い人はそうした食べ物は、避けたほうがいいということですね

A:基本的にはそういうことです。しかし、現在の医学での考え方は、あまり厳格にこれらの食品をさけなくてもよい、ということです。

問題は、日常的に大量に摂取することです。

食べ過ぎ、飲みすぎなければよいということです。1日に口にする総量、総カロリーの方がむしろ問題です。実は、体重と尿酸値はきれいに相関します。肥満傾向のある人は、

1日に食べる総カロリーを減らし、体重が落ちると尿酸は下がります。体重をどうやって減らすか、尿酸の高い人では、体重が落ちるほどの激しい運動は勧められません。先ほど、ちょっと話ましたが、運動をしすぎると筋肉の一部がこわれ、細胞からプリン体が放出され、かえって尿酸があがってしまうことがあります。結果、痛風発作の引き金になることが少なくありません。もちろん適度な有酸素運動な有益ですが。

Q:食事療法が中心ということですね。

A:そうです。食事の総量を抑えるということです。ただ、やせていても、尿酸が高い人もいるわけで、高尿酸血症といったとき、体質的に尿酸の産生が過剰なかた、あるいは、尿酸の排泄が悪いかた、そしてその混合したかた、というふうに3つのパターンがあります。食事療法が中心ですが、薬を使う場合、

尿酸の産生が過剰なのか、排泄が低下しているのか、その混合した型なのか、それを見極めて薬の種類を決める必要があります。



Q:治療のことに移りますが、尿酸がどのくらいになったら治療が必要でしょうか?

A:尿酸が7.0を超えると病的な「高尿酸血症」ということになります。しかし、7.0をこえてもすぐ薬が必要というわけではありません。

肥満傾向があるのであれば、体重コントロールが何より大事です。8.0を超えて過去に痛風発作をおこしたことがある、あるいは高血圧、コレステロールが高い、糖尿病の合併があるというときには、薬物治療をしたほうがいいでしょう。尿酸が9.0を超えている場合は、まったなしで薬物治療が必要です。

Q:尿酸が8.0を超えると、痛風が起きやすくなるということでしょうか?

A.長期に8.0をこえる状況が続くと確かに痛風発作の危険が高まります。しかし、高尿酸血症の治療というのは、決して痛風を予防するためだけではありません。冒頭にお話ししたように、尿酸が7.0を超えると、尿酸はあちこちに沈着していきます。関節はむろんですが、ほか、腎臓や血管にも沈着を起こすのです。腎臓に沈着すると、腎結石や腎機能障害の原因となります。血管に沈着すると動脈硬化の危険が高まります。動脈硬化は脳卒中や狭心症、心筋梗塞などの心臓病をひきおこします。つまり、尿酸が高いということは、血糖やコレステロールが高いということと同じような意味があり、様々な成人病をひきおこす重要な一つの危険因子です。現に、尿酸が高いと狭心症が起こるリスクが高くなるという科学的な報告があります。

Q:尿酸が高い人は、痛風の発作がなくても放置してはいけないということですね。

A:そのとおりです。高尿酸血症は、単に痛風を引き起こすばかりでなく、腎障害や狭心症などいろいろな成人病ののもとになる重要なリスクファクターであることをご理解いただければと思います。


 <2009年1月>
 2009年1月から2月にかけて、朝日新聞の地方版(茨城版)に「医の一番」というタイトルで、5回に渡って連載したものです。

医の一番①膠原病

免疫システムの変調が原因

治療薬や治療法は飛躍的に進歩



医学部入学前、フロイトやユング、フロムなどに傾倒し心理学を学んだ。医学部では当初精神科を志望したが、精神分析的なアプローチは、現在の精神科医療のなかではなかなか困難な場合が多い。次いで目指したのが「何でも診ることのできる医者」であった。

どの科でもそうだが、私が専門とする膠原病(こうげんびょう)では関節や皮膚、内臓の諸臓器など全身にくまなく目を光らせ、時には精神という領域にも気配りが必要である。肺や腎臓の病気から膠原病が見つかることもあるし、皮膚の病気が膠原病であることも少なくない。その意味で各科との連携は重要である。

膠原病はひとつの病気を示すものではなく、関節リウマチ(RA),全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症、多発性筋炎・皮膚筋炎、血管炎、シェーグレン症候群などの総称である。病気の原因の詳細は不明だが、遺伝的要因にウイルス感染などの環境要因が加わり、免疫システムの変調(自己免疫現象)が起こり発症するとされる。自己免疫とは、通常外から進入する細菌やウィルスに働く免疫機構が、自分の体の組織や細胞に攻撃をしかけてしまうという病的状態である。免疫の異常であるから、どの種の膠原病でも多臓器に障害が出ることがある。免疫の異常を示す結果は、血液検査から得られるが、それで病気が決まるわけではない。それぞれに特有な臨床症状が出現しそれを確認し得た時点で診断が成立する。血液検査の異常のみで、何年も経過する場合も少なくない。むろんそうした場合に治療の必要はない。

 臨床医にとって患者の死ほどつらいことはない。どの死にもそれぞれの思いが残る。中でも忘れられない死はある。20年も前だが、バスガイドを夢みていたAさんは、SLEで入院中、閉眼したまま呼びかけにも応じない「無動無言」に陥った。SLEの中枢神経障害である。大量のステロイド剤の投与で小康を得たが感染症を併発し残念ながら亡くなった。短大生であったBさんは混合性結合組織病(膠原病の一つ)で重症の肺高血圧症を併発していた。ある朝、突然意識がなくなり病院に搬送された。すでに心肺停止状態であった。のちに、父親から香典の一部を難病の研究にと申し出をいただいたが、丁重にお断りした。膠原病は、かつて「不治の病」などと言われ、事実重症で治療の困難な病態もある。しかし現在は、治療薬も治療戦略も飛躍的に進歩した。決して不治の病ではない。AさんやBさんのような例は、今ではむしろ例外的で、その死も父親の気持ちも決して無駄にはなっていない。

医の一番② 関節リウマチ(上)

 関節リウマチ(以下リウマチ)は膠原病の代表的疾患の一つで、患者数が最も多い。25年前の教科書には患者数約30万人と記載されている。現在その数は80万人以上とされる。これは何も急に患者が増えたわけでなくリウマチという疾患への理解が深まったことと、リウマチの診断技術が進歩したことによるものであろう。リウマチは関節に炎症が起こり腫れて痛む。放置すると進行し関節が壊れて変形を生じ重い障害を残す。原因の詳細はまだ不明である。  リウマチは血液検査だけでわかるわけではない。たとえばリウマトイド因子はリウマチに比較的特徴的にみられる検査の異常だが、実際には60~70%でしか陽性にならない。リウマトイド因子のないリウマチ患者も少なくないしし、リウマトイド因子陽性で健康な方も多い。 大事なことは、関節の腫れが多数(三つ以上)、左右対称にみられるかどうかである。これらの腫れは手首、手指の関節に見られることが多い。
手の痛みと腫れを訴えて受診された50歳代のAさん。長年調理の仕事をしてきた。確かに両手の先端の関節が腫れている。押すと痛い。血液検査には異常はでなかった。Aさんはリウマチではなく変形性関節症である。Aさんの手の腫れはへバーデン結節と呼ばれ、体質も関係するが、年齢を経た方が過去手作業などをたくさんした場合に見られやすい。労働への勲章みたいなものである。一口に関節の腫れというがこれをきちんと捉えることは案外難しい。私もしばしば迷う。プロの面子にかけて繰り返し手に触ることになる。診断には時間がかかる場合が少なくない。言い訳がましいが。
 「リウマチ白書」(05年・日本リウマチ友の会)によれば、患者の悩みは「何かにつけて人手を頼むとき」と「激しい痛みがある、治らない」がそれぞれ30%を超え最も多い。リウマチ患者は30~50歳前後の女性に多い。家事や育児に深く係わらねばならない年代で、動けず、人に頼らねばならないストレスは容易に想像できる。ストレスは、痛みや治らないのではないかという不安を増幅させる。家族の理解が大事である。診療のなかで、この種の悩みを垣間見ることは稀ではない。医師になりたてのころ、寝たきりのリウマチ患者は多数いた。勤務医時代、往診は日常診療の一部であった。しかし、今、リウマチは治らない病気ではなくなった。寝たきりにはならない。治療薬の進歩は著しい。具体的にはメソトレキサート(MTX)が標準的治療薬になったことと、生物学的製剤が登場したことである。以下次回に続く。

医の一番③関節リウマ(下)

MTXと生物学的製剤

大きな効果で治療法に新たな進歩

70歳を越えたSさんは、車椅子で受診された。関節リウマチ(以下リウマチ)になって8年になるという。手、膝の痛みで寝たきり状態が半年以上続いている。足はやせ細り筋力もない。痛みを抑えるために消炎鎮痛薬とステロイド薬を投与した。ただ、痛みがどんなに抑えられても、根本的な炎症が続けば病気は進行するし、関節破壊や変形を防ぐことはできない。

リウマチの炎症や関節の破壊を抑える薬は「抗リウマチ薬」と呼ばれる。いくつかの種類があるが、よく使われているのがメトトレキセート(MTX)である。世界的にもリウマチと診断されたら第一に使用する薬とされる。SさんにもMTXを併用した。3か月後、痛みはよくなったが、腫れと炎症は残っている。そこで生物学的製剤と呼ばれる治療薬を加えた。1カ月後、Sさんは自分で杖をついて診察室へ入ってきた。

生物学的製剤とは、生物が作り出す物質を薬剤として利用したものである。リウマチの炎症を引き起こすサイトカインという物質を標的にしてミサイルのように狙いを定めて反応する。現在は4種類の生物学的製剤がある。いずれも効果は絶大で、痛みをとるだけでなく、とくにMTXと併用すると、関節破壊を抑える力が強い。関節破壊が始まらない発症早期からの使用が推奨されている。万能薬ではないが、リウマチ治療に新しい進歩をもたらしてくれた。

20台前半でリウマチになったAさんは、消炎鎮痛薬とMTXで治療していたが、将来の関節破壊の進行を防ぐため生物学的製剤を使ってみた。痛みや腫れは短期間で劇的に改善した。4年経過した現在、関節破壊の進行は認められず、日常生活も仕事も不自由なく順調にこなしている。消炎鎮痛薬は服用せず、MTXと生物学的製剤も減らすことに成功した。今後はこの二つの薬もやめることが期待できそうだ。

ただ、生物学的製剤は高価な薬で、これが難点の一つである。膠原病の多くに「難病指定」による公費負担制度があるのに、リウマチはこの対象ではない。長期間、月4~5万円という高額な医療費の支払いは患者さんにかなりの負担だ。このために医学的な必要性があるにもかかわらず、生物学的製剤の使用に踏み切れない患者さんがいる。また、途中でその使用を断念せざるを得ない患者さんもいる。医師としてはやりきれない思いである。何とかならないものか。一部でもよいから公費の援助は期待できないものか。「必要な医療が受けられない」現状が実際にあることを、医療人として重く受け止めたい。

医の一番④シェーグレン症候群

50歳代女性のKさん。半年以上前から咳が出るといって受診された。咳以外にのどの痛みや発熱など感冒の症状もない。レントゲン写真でも異常はない。血液検査でシェーグレン症候群に特有な検査の異常がでた。あらためてよく聞くと、ドライアイがあり口角炎をおこしやすいという。

シェーグレン症候群は膠原病の一つで、目や口などの粘膜や皮膚の乾燥症状を呈する。涙がでない、目がころころする、目がかゆいなどと訴える。口の乾燥症状として、口が渇く、唾液が出ない、食事の時に水をよく飲む、虫歯が多くなったなどがある。鼻も渇く。耳下腺が腫れることもある。この病気は女性に多い。乾燥症状が見逃されている場合があり、かなりの患者が潜在しているとされる。実数、10~30万人と推定されている。 

症状や血液検査で疑われたら、唾液腺を実際に写し出す唾液腺造影や唾液腺シンチグラフィー、また口唇唾液腺の一部を生検して診断をはっきりさせる。Kさんも唾液腺の生検でシェーグレン症候群と確定した。咳は、乾燥した気管支によるもので、口角炎もこの病気でみられる症状の一つである。

治療薬として塩酸セべメリンという薬剤がよく効く。Kさんにもこの薬剤を投与した。咳はほとんど気にならないくらい軽くなった。

この病気は、乾燥症状を主とするが、ほかにも多彩な合併症が出ることがあるので注意を要する。たとえば、甲状腺や肝臓の障害、皮疹、関節炎などである。また、関節リウマチなど他の膠原病を合併することもあるので目がはなせない。

「口が乾く」(かわく)という患者さの訴えは、具体的には実に多彩である。「のどがかわく」と考えると糖尿病の先生のもとを訪れる。「口がねばねばする」と感じると歯科の病気かもしれないと歯科の先生に受診する。目もそうである。「目がかゆい」という症状から、花粉症かもしれないと眼科の先生に診てもらう。「乾く」(ドライ)という症状を適格に聞き出すことは、案外難しいのである。診断がつかず複数の科を転々とし、悶々としている患者も多いと思う。この病気の診断には、歯科や眼科、耳鼻科など多くの分野の先生との協調が重要である。。潜在する患者数は決して少なくないはずだ。

ただ、次のような例もある。70歳を超えたSさんは、口がかわくとこの病気を心配されて受診したが、結局、原因は加齢と、「不眠症」でのんでいた安定剤の影響であった。60歳のHさんは、「つばが出にくい」と来られたが、過去の食道癌の放射線治療の影響によるものであった。

医の一番⑤痛風

痛風発作は急性におこる関節炎で、風にふれても痛い。45歳のKさんは、足を引きずりながら診察室へ入ってきた。右足の親指の付根と足の甲が赤く腫れて、見るからに痛そうだ。痛風発作であることは間違いない。後日判明した血液の尿酸値は9.0mg/dlを超えていた。発作時には安静と患部を冷やすことが肝心で、マッサージなどは厳禁である。発作を抑えるために、消炎鎮痛薬を投与し、一週後の再診とした。発作は通常3日~7日程度でおさまるはずである。原因となる高尿酸血症に対する薬剤は、発作中は投与しない。血液と関節中の尿酸バランスがくずれ、逆に発作を悪化させることがある。一週間後Kさんは受診せず、次に姿を見せたのは半年後であった。今度は左足の発作であった。このまま放置すれば、手や膝にも発作を起こしかねない。

血中の尿酸は、7.0mg/dlを越えると体内に沈着しやすくなる。急性関節炎をおこすだけでなく、尿路結石や腎障害の原因となる。また高尿酸血症は「メタボリックシンドローム」の一つの要素と考えたほうがよい。高血圧や脂質異常症を合併していることが多いからである。こうした場合、心筋梗塞や脳血管障害のリスクが高くなる。単に、痛風をおこすだけではないのである。Kさんは尿酸だけでなくコレステロール値も高く、長期に医学的な管理が必要である。

食事から摂取されるプリン体は、体内で尿酸に代謝され尿から排泄される。プリン体を多く含む食物、たとえばレバーやエビ、イワシなどを食べ過ぎると血中の尿酸は上昇する。アルコールではビールにプリン体が多く含まれる。これらの「過食」「過飲」が発作の引き金となることは事実だが、長期的には「質」より「量」が問題であり、厳格な「質」の食事制限にはしる必要はない。むしろ密接に関係するのは、「肥満」であることがわかっている。肥満がある場合、体重を減らすことで尿酸は下がることが多い。ただ、標準体重でありながら尿酸が高い人もいて、尿酸がたまりやすい体質、排泄されにくい体質があることも事実だ。

女性ホルモンには尿酸低下作用があるので、痛風は圧倒的に男性に多い。成人男性の20%は高尿酸血症とされる。ひと昔前、痛風の発症のピークは50歳台であった。現在、そのピークは30歳代といわれ、どんどん若年化している印象がある。Yさんは22歳で痛風発作をおこした。体重は100kgを超える。若いし独身でもあり、食事管理が難しい。根気よく「生活習慣」の改善をめざしていくしかない。



<07年6月23日>07年5月19日、リウマチ患者さんの会で講演の内容です。(於 水戸)
関節リウマチ(RA)と最新の治療というテーマでお話させていただきます。RAは膠原病の代表的疾患です。膠原病は、単一の疾患ではなく、様々な疾患の集まり、総称です。RAのほか、全身性エリテマトーデス(SLE),全身性硬化症(強皮症)(SSc)、多発性筋炎・皮膚筋炎、血管炎症候群、混合性結合組織病(MCTD),シェーグレン症候群、ベーチェット病などの疾患が含まれます。これらの膠原病は、その病因という観点から自己免疫疾患とも呼ばれます。しかし、自己免疫疾患という場合、潰瘍性大腸炎や重症筋無力症など他の領域の疾患も含まれます。つまり、膠原病と自己免疫疾患とは完全にイコールではないのです。

では、免疫とは何でしょうか。我々は、生まれながらに免疫という体を守るシステムを持っています。外から入って来る敵、これらを抗原と総称しますが、たとえば、ウィルスや細菌、その他の異物に対して、抗体というある種の蛋白を作り、それを排除するというシステムです。抗原と抗体が反応し、生体に有利な結果を生み出す場合は「免疫」です。ある種の異物、カビやハウスダスト、花粉などが入りこみ、生体に不利な結果を生み出す場合は「アレルギー」です。たとえば、喘息や花粉症はアレルギー性疾患と呼ばれます、

自己免疫とは、こうした免疫のシステムの変調です。本来、外から入ってくるものに対してのみに抗体はできるのですが、自己の細胞や組織など、生体内部の構成成分に対して抗体ができてしまうのです。こうした抗体は自己抗体と呼ばれますが、リウマトイド因子や抗核抗体など多数知られています。こうした、自己抗体が自己の構成成分と反応をおこしてしまうわけですから、RAを含め膠原病は、多臓器障害性の疾患と言えるわけです。

さて、RAの有病率ですが、0.5-1.0%といわれています。1000人の人口がいると、女性で約5.4人のRA患者さんがいるとされています。男性では少なく、1000人中、1.1人ぐらいです。

RAは、よく知られているように、アメリカリウマチ協会(ACR)(1987改訂)の分類基準に従い診断されます。RAに特徴的な7つの項目のうち、4項目以上を満たせばRAと診断します。要約をすれば、RAの関節炎は、左右対称性の多数(3つ以上)の関節の炎症です。右なら右というふうに、片側だけに起こることはありません。また、1、2個の関節だけということもありません。もう一つの特徴は、手および手指に多いということです。手首や手指の付け根の関節(MTP関節といいます)、二番目の関節(PIP関節といいます)の関節炎です。関節の「炎症」ですから、痛みも大切な所見ですが、「腫れる」(腫脹)という所見がより重要です。それから、これも大事なことですが、リウマトイド因子は、必ずしも陽性にはならないということです。リウマトイド因子が陰性のRAの患者さんはたくさんいます。また、逆にリウマトイド因子陽性で、何の病気を持たない方も多数存在します。以前、総合病院に在籍していたころ、人間ドックの受診者のリウマトイド因子の陽性率を調べたことがあります。約6%が陽性でした。無論何の異常もない方ばかりでした。言いたいことは、RAは、血液検査で決まるものではないということです。

さて、RAの治療ですが、ひとつは「関節炎」という「火事」の状態を抑えるということがあります。もう一つは、そもそも関節炎「火事」を起こしている、「放火犯」というべき「免疫の変調(自己免疫)」があるわけで、これを是正していかなければならない。関節炎の治療薬として、様々な非ステロイド系抗炎症薬があり、また、副腎ステロイド剤(プレドニソロン)という強力な抗炎症薬があります。より根本的に自己免疫を抑える薬剤を広く「抗リウマチ薬」(DMARD)と呼びます。これにも、いろいろな薬剤があります。古くから注射金剤(シオゾール)が使われてきました。金の経口薬としてリドーラがあります。また、メタルカプターゼ、リマチル、アザルフィジン、オークル、モーバー、ブレディニンといった薬剤が使用されています。これにメトトレキサート(MTX)が使用できるようになり、最近、アラバやプログラフといった抗リウマチ薬も登場してきました。

さて、近年、RAの治療に対する考え方と治療法が、以前とはずいぶん変わってきました。要約すると、①早期発見、早期治療、②きちんとした評価をし、薬剤の選択を適切に行う、③MTXを中心した治療戦略の変化、④生物学的製剤の登場、とういことになります。専門医により早期診断がおこなわれ、早期に治療が開始できれば、関節破壊の進行を防ぐことが可能な時代になりました。また、薬剤は、無論、個人差がありますから、その有用性をできるだけ早く見極める必要があります、何となく、投与し続けるということはあってはならないことです、3カ月、遅くても4,5カ月で、その薬剤が本当に有功なのか、続けるべきなのか、他の薬剤に切り変えるべきなのか、その「評価」がとても重要です。そして、何といっても、今、RA治療の中心的薬剤はMTXです。中心的薬剤であると同時に、早期から導入すべき薬剤ともいえます。臨床的有効性に優れ、関節破壊の進展も抑制します。週1回、8mgまで、保険上は投与可能です。効果は比較的早期から現れます。ただ、肝障害、間質性肺炎、血球減少という副作用が発現することがありますから、定期的検査は必ず必要です。

もうひとつ、画期的薬剤が登場してきました。「生物学的製剤」と呼ばれるものです。RAでは、TNFαというサイカインと呼ばれる物質が重要な役割を果たすことがわかってきました。このTNFαが他の様々な炎症細胞やIL6とういようなサイトカインを惹起し、関節炎を起こすことが明らかになっています。TNFαを阻害することができれば、RAの関節炎はかなりコントロールできることが予想されます。まさに、その予想どおり、このTNFαを阻害する「生物学的製剤」は、RA治療の画期的薬剤となっています。現在、本邦では、レミケードとエンブレルという2種の製剤が使用できます。前者は点滴靜注、後者は週2回の皮下注です。エンブレルは、自己注射となりますが、案ずるより生むがやすしで、どなたでもできます。私のところでも30人ぐらいの方が使用していますが、いずれも高い有効性を示しています。この薬剤は、関節破壊の進行を抑制するだけではなく、従来考えられなかったような、小関節での骨びらん(破壊)を改善をも期待できます。ただ、大困ったことに、この生物学的製剤は、コストが大変高い。この点で、当方も悩ましい事態に遭遇するわけです。

いずれにしろ、今、RA治療において文字通り、患者さんのADLを飛躍的に改善する手段をもっておりますし、疾患の「完全寛解」を目指せるようになったと言えます。






<06年3月10日> 近年における痛風の病像と治療法
      (06年3月15日ラジオNIKKEI「日医生涯教育協力講座」放送分の概要)
 痛風とは高尿酸血症の結果、過飽和となった尿酸が組織に沈着し、多彩な症状を引き起こす疾患と定義される。代表的症状としては、急性単関節炎、痛風結節、尿酸結石、痛風腎などである。生体の尿酸プールは役1400mg程度とされており、このうち500mg程度が腎より排泄され、200mg程度が汗や腸管より排泄されるとされている。尿酸プールを越えて「過飽和」状態となるのは、血清尿酸値レベルで7.0mg/dl以上が持続する場合と推定される。
 近年、痛風の発症年齢は若年化しつつある。1960年代、痛風の発症のピークは50歳台であった。しかし、1990年台のある調査によると30歳台がピークである。また、尿酸値の血清学的モニターが一般化し、高尿酸血症の治療が早期より行われようになった結果、高度の関節炎や耳介などの痛風結節に遭遇する頻度も減少してきていると言える。
 しかし一方、現代の成人男性の約20%は高尿酸血症を有しているとされる。また、同時に高血圧や高脂血症を合併していることも多く、高尿酸血症は生活習慣病と関連した「マルチプルリスク症候群」、「メタボリックシンドローム」としての視点から捉え直されてきている。すなわち内臓肥満を中心としたインスリン抵抗性、糖尿病、高血圧、高脂血症などとともに、生命予後を左右する重要な因子の一つとして考えられるようになってきている。この点は2002年痛風・核酸代謝学会の「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」においても色濃く強調されている。実際、多くの疫学調査で高尿酸血症と心・脳血管障害の相関性が証明されており、高血圧患者で、高尿酸血症の存在は、心血管イベントの独立した危険因子とされている。高尿酸血症は単に痛風の予備軍ではないことを強調しておきたい。
 さて、血清尿酸値が7.0mg/dl以上であれば、男女ともに「高尿酸血症」とされる。9.0mg/dl以上であればほぼ絶対的に薬物治療の対象となる。8.0mg/dl以上で、先にあげた高血圧や高脂血症、耐糖能異常などのリスクファクターを合わせ持つ場合にも薬物治療を開始したほうがよい。7.0-8.0mg/dlで何の合併症もなく、痛風発作の既往のない場合などでは生活指導から始めるべきである。生活指導は①肥満の解消、②過度の飲酒の制限(特にビール)、③十分量の水分の接取、④ジョキング程度の有酸素運動の勧め、⑤ストレスの解消、等である。プリン体含有の多い食品、たとえばアジの干物、レバー、海老、いわし等の食品を控えることは意味のあることではあるが、実際の生活上、あまり厳しいプリン体制限食は、現在では推奨されていない。質より量であり、体重のコントロールは直接的に尿酸を下げる効果がある。
 高尿酸血症の薬物治療を行う際、その病型分類が重要となる。尿酸の産生が過剰なのか、排泄能の低下なのかを知ることが重要である。蓄尿を行って尿中尿酸およびクレアチニン・クリアランスと両者の比を算出することで病型分類が可能であるが、実際の臨床場面ではなかなか困難である。そこで、簡便法として、患者さんが来院した際の随時尿を用いて、尿中の尿酸とクレアチニンの比を用いることが推奨されている。カットオフ値をどうするかの問題が残るが、この比が0.4以下であれば排泄低下型であるし、0.6以上であればかなりの確立で産生過剰型といえる。排泄低下型であれば、尿酸排泄促進薬、産生過剰型であれば、尿酸産生抑制薬を用いる。前者はベンズブロマロン、後者の薬剤はアロプリノールである。ベンズブロマロンを用いる場合は、クエン酸製剤を併用し尿中PHを6.5程度に保つことが重要である。尿路結石などの予防につながる。腎障害やすでに尿路結石などが存在する場合には、アロプリノールを選択した方がよい。
 治療開始した時の尿酸値の目標は、4.0-6.0mg/dlである。
 痛風発作時の薬物療法の基本は「抗炎症」である。非ステロイド系消炎鎮痛薬NSAID)を短期的に多量投与を原則とする。インドメタシン50mgの坐剤やジクロフェナク坐剤(保険適用外)の併用も有効である。胃腸障害や腎障害などでNSAIDの使用が困難な場合にはプレドニソロン15-20mg程度を投与してもよい。ただし1週程度で速やかに減量すべきである。
 近年、本来の作用に加えて尿酸低下作用を持つ薬物が登場している。降圧薬のロサルタンカリウム、高脂血症薬のフェノフィブラートである。高尿酸血症をマルチプルリスク症候群、メタボリックシンドロームとして捉えるとき、こうした薬剤は、高尿酸血症の治療戦略に一定の役割を果たすことも推測される。この点は今後の課題と言える。

 

<05年7月1日>   関節リウマチ(RA)治療の新しい展開
 今春、新しい抗リウマチ薬が2剤登場した。一つは、新しい生物学的製剤あるエタネルセプト(商品名:エンブレル)、もう一つは免疫抑制剤であるタクロリムス(プログラフ)である。いずれも欧米では、すでに使用されている薬剤でありその効果も一定の評価を得ている。
 エンブレルは、可溶性TNF受容体であり、TNF-α、βを特異的に抑制する。同じTNFブロッカーとして既にレミケードが使用されているが、レミケードがキメラ型製剤であるのに対し、エンブレルはヒト型製剤であり、アナフィラキシー様症状の出現はエンブレルにおいて少ない。機序的にもレミケードがTNF-αの中和として効力を発揮するのに対し、エンブレルはTNF-αの結合阻害として働く。前者は点滴静注であるのに対し、後者は皮下注であることも相違点である。エンブレルは、RAの関節炎を速やかに抑制して症状を改善させ、骨破壊を抑制する明らかなエビデンスがある。臨床効果がメトトレキサート(MTX)より優れていることも示されている。この薬剤は週2回の皮下注である。投与開始1か月間、外来へ週2回通院していただくことが、ひとつの難関である。その後は、自己注射が認められており(糖尿病の自己注射のように)、自分でうつためのトレーニングが必要である。
 当院でもすでに6名の方がエンブレルの使用を開始されており、いずれも良好な臨床的有効性を示している。 RAの手の機能障害のため、自分でうつことに対する心配も危惧されたが、いずれもクリアされている。
 もう一つの薬剤、プログラフは経口剤であり、活性化したT細胞に作用することで効力を発揮する。既に移植領域では、使用されていた薬剤であるが、RAで使用される場合は、3mg(1日)という用量である。MTXより優れているという報告もあり、またMTX不応例に有効という論文もある。
 これら2つの薬剤の登場は、RA治療の大きな福音であることは間違いないが、臨床医として「陰」の部分にも正しく眼を向け、患者さんにも十分な「インフォームド・コンセント」が必要であることは論を待たない。一つは無論、副作用の問題であり、一つはコストの問題である。
 以前にも述べたが、さらにこれから新しい抗リウマチ薬を我々は手にするであろう。どのように使用していくのか、大きな治療のストラテジーの確立が求められる。
既存の治療薬にも個々の例に応じ、正しく眼を向けるべきである。小さな鳥を撃つのに、散弾銃を使うような愚を犯すべきではないだろう。

<04年8月23日>   シェーグレン症候群の話題
 シェーグレン症候群(SS)の症状は実に多彩である。通常、SSの症状は乾燥症状に係わる腺性症状とそれ以外の腺外症状に分けられることが多いが、トータルにSSの臓器病変と呼んだほうが良いと思われる印象さえある。
 乾性咳そう(空咳)は、しばしば看過される。風邪や慢性気管支炎やアレルギー性咳そうなどと混同されていることも多い。患者さん自身も気づいておらず、問診で初めてそういえば「咳が出やすい」と訴えをする方もいるし、「一年中、風邪をひいている」などと言う方もいる。無論、SSにおける乾性咳そうは、乾燥気管支をベースにしたものであるから、通常の感冒薬や鎮咳剤は有効ではない。近年、  
 SSの口腔乾燥症に対し、塩酸セビメリン水和物が使用できるようになり、SS患者の乾燥症状の改善に大きな福音となっている。乾性咳そうに対しても一定の有効性があることを筆者は報告した(「日本臨床免疫学会会誌Vol.22No.2,2004)。
SSおいて、M蛋白血症の出現や時に網内系腫瘍が発生することがあることは知られている。網内系腫瘍の多くはリンパ腫である。私どもはSSに伴ったMALTリンパ腫の経験をしているし、M蛋白血症の出現も少なからず経験している。(「臨床免疫学会会誌Vol25,No6,2002)。SSA抗体陰性、高γグロブリン血症、高齢男子に多く見受けられる印象があるが、どうであろうか。
 うつ症状もSSの臨床においては、しばしば経験されるがSSA抗体陽性のかたに多い印象をうける。しかし、私のような内科医にとって「うつ」の評価、診断は大変困難であり、心療内科医、精神科医との連携の必要性を痛感している。うつ症状がSSの臓器病変の一つとして認識されるべきなのかどうか、あるいはその出現頻度はどの程度なのか、さらには治療法の選択はどうすべきなのか、臨床的課題は多く、たぶん大規模な他施設での共同研究が必要なのではあるまいか。
 乾性咳そうにしろ、M蛋白、リンパ腫あるいはうつ症状にしろ、そうした病態の母集団のなかに、潜在するSSを確定診断し発見していく作業もまた大変大事であろうと考える。
 SSの確定診断には、口唇生検や唾液腺造影検査は欠かせない。血清学的にSSA抗体やSSB抗体が認められる場合はともかく、臨床上の眼や口の乾燥症状だけでは、なかなか上記のごときの検査には踏み切れない。しかし、たとえSSA抗体が陰性、あるいは抗核抗体が陰性であっても明らかな白血球減少または血小板減少and/orリウマトイド因子陽性and/or高γグロブリン血症などを認め、乾燥症状がある場合には積極的に口唇生検をすべきであろう。(内科医には唾液腺造影は困難な手技である。)SSの確定診断ができれば、患者さんの将来的なフォローウアップの有り様は、根本的に変わるはずである。
 SSは欧米に多いとされるが、診断率の差もまた大きいと感じているリウマトロジストは、私だけではないはずである。

<04年6月30日>   関節リウマチ(RA)の治療の進展
 関節リウマチは、3年ぐらい前まで「慢性関節リウマチ」と呼ばれていた。近年、「慢性」がとれたわけである。理由はいろいろあろうが、RAが治療法の進歩により必ずしも「慢性」ではなく、寛解も目指せるようになったことが理由としては大きい。
 RA治療は近年大きく変化し進展をみせている。一つは、新しい治療薬剤の登場であり、一つは治療戦略あるいはRA治療に対する考え方の変化である。
 RAの詳細な病因は未だ不明であるものの、TNFαが病因の重要なKEY物質の一つであることは、もはや疑いはない。TNFαはサイトカインカスケードの上流に位置する物質であり、理論的にはTNFαを阻害すればRAの炎症を根源的に抑え込むことが期待できる。こうしたTNFαブロッカーとして、03年秋にレミケードR
(抗TNFαキメラ型モノクロナール抗体)が登場し著しい効果をみせている。また、本年度中には、エムブレルR(可溶性TNFα抗体)も認可される予定である。レミケードと同じ時期に認可になったレフルノミド(アラバR)も強力な抗リウマチ作用を有する。そのほか、T614やFK506(タクロリムス)といった新しい抗リウマチ薬も認可が時間の問題であり、われわれはRAに対する新しい強力な武器を次々と手に入れることになる。
 こうした治療薬の登場は、RA治療戦略に根本的な変化を迫っていると考える。
従来、RAの治療はピラミッド型の、温和な薬剤から効果が得られなければ次々と他の薬剤に切り替え積み上げていくという発想であった。アメリカリウマチ学会の治療指針が指摘するところであるが、RA診断早期(可能なら3カ月以内)に強力な治療を開始できるかどうかは、RAの機能予後に大きな影響を及ぼす。
 金剤(注射・経口)、SH基剤(D-ペニシラミン、ブシラミン)、SASP(アザルフィジン)、Actalit、Mizoribine(ブレディニン)、MTX(リウマトレックス)などが、近年使用されていた抗リウマチ薬であるが、この中でMTXなしにRA治療は語れない。
 私は、MTXは現在、RA治療のファーストラインの薬剤と考える。MTXの禁忌例(絶対的、相対的)を除き、MTXはRA治療の中心的薬剤である。禁忌例と考えられるのは、慢性の肝障害、慢性の肺障害、腎不全、挙児希望者、消化器症状等で服薬困難者等である。MTXが使用できない例に関し、その他の抗リウマチ薬が考慮される。無論MTXの有効でない例、あるいは効果の減弱例はあるわけで、そうした場合には、先にあげたTNFαブロッカーや新しい抗リウマチ薬が考慮されるべきであろう。実は、そうしたおおきなRA治療の戦略がきちんとした形でオーソライズされていないのであり、今後の課題と言える。近く日本リウマチ学会による治療指針が明らかにされる予定であり、注目しよう。
 いずれにしろ、現時点では、RAの早期発見、早期診断、MTXによる早期治療が
スタートラインと考える。